モダニスト的な「純粋文化」への憧憬としてあらわれたプリミティヴィズムは、それ自体たしかに「場所」と「場所」とのあいだに拡がる「差異」を文化的地形の起伏として捉える点において、当時の人類学的認識と多くの部分を共有していた。その意味でも、「人類学者」と「旅人」とは、きわめて近い位置関係にあったといえることはすでに述べたとおりだ。しかしベネディクトの出現に象徴されているように、「差異」の発見の処女的な感動は、やがてその「差異」そのものを説明し記述するためのレトリックの世界へと導かれることで、一つの科学的認識として承認されるようになっていった。(今福龍太『増補版 クレオール主義』ちくま学芸文庫、2003、70頁)