戦争でバリバリ活躍してた事を誇らしげに語っていた祖父の左手は無い。中国人に撃たれたらしい。笑いながら近づいてきて、最初はグー!!、と僕の頭を殴るのが祖父の習慣だった。
そんな苛立たしい思い出が一瞬過った。あまりに僕の日常が退屈で、自分の嫌悪しているインディーズアダルト変態モノ(いつもは素人ナンパシリーズ!)で自慰を試みようとしたせいかもしれない。左手の無い少女。全然興奮出来ない、ってかむしろ祖父の、最初はグー!!、しか思い浮かばない…くそぉ…シワシワ満面の笑み浮かべやがって……なんて言ってるまにまに、僕の左手が突然巨大化しはじめた。1分で約2倍の大きさになった。て事は、1時間後には、2×2×2×2×2×2×2×2×2×・・・ぎゃーーー!!!! ってその辺のメモ用紙で計算に没頭してたら、僕の左手が尋常で無い重さになってしまった。耐えられなくなった僕は、右手で左手の切断を決意する。ちょうど祖父が使っていた高枝切りバサミがここに、ってこれ切りにきぃ〜〜〜〜!!と一人漫談してる最中にもどんどん大きくなる左手。焦った僕は引き出しにしまって置いた肉切り包丁で左手をグチャッ!!ドテッ。。。
不意をつかれ切り取られてしまった左手は僕に対してめちゃくちゃ怒ったように見える。怒ったように見えるから余計に大きくなったようにも見える。自己妄想の悪循環を止めようと、僕はふと左手に労いの言葉をかける。「ご苦労様」バチン!無意識に(?)僕は左手に頬を張られた。何か強引に左手はますます大きくなるばかり。中指の付け根辺りからはくちゃくちゃガムを噛んでるような音もする。怖くなった僕は、逃げるようにして家を出た。ちなみに僕の家は二階建て。一階には寝たきりになった祖父が住んでいる。僕がしょうがなく面倒見てるのだ。偉い子なのだ。二人暮しになっちゃったのだ。拍手!って出来ないよぉ〜〜〜!!、とまた一人漫談した僕は本当に久しぶりに外の空気を吸った。すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。改めて自分の家を眺め、郵便受けに押し込まれた約2年分の新聞を客観的にぼーーーーっと色々な感傷に浸りながら眺めていると涙がちょっとぽろぽろとしたのだけれど、案の定、僕の家の二階がスパッと消えて一階がズバッと潰れた。寝たきりの祖父は巨大化した僕の左手のちょうど親指と人差し指の間ですやすや眠っていた。僕は無意識に残された右手を強く握った。そしてその巨大化した左手のパーに僕は負けた。